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[14 7 月 2009 | 4 Comments | | ]

今は、それぞれがひとつづつのPCで作業し、それらのPCをLANで繋ぐような開発環境が当たり前になってしまったが、その昔は、ひとつの大きなマシン(汎用機あるいはミニコン)にダム端末をいくつも繋げての開発が主流だった。それでも、端末の数が足りないと昼夜の交替で開発が進められた。
特に300人を超えるような大きなプロジェクトでは、複数の下請け会社の社員達も開発に参加するため、顔も名前も知らないようなスタッフと同じマシンにプログラムファイルを書き込むことになるのだ。
これからお話するのは、そんな時代のちょっとした怪奇談である。
そのプロジェクトは金融関係の大きな、しかし絶対に不具合が許されないようなシステム構築だった。当時の僕は一プログラマとしてそのプロジェクトに参加していた。当然、システムの全体が見えているわけでもなく、与えられた仕様書に従い、指定されたインプットデータに正しいアプトプットデータを出力するというだけのプログラムを日夜書いていた。
どのプロジェクトもそうだが、納期が迫ってくると当然、スタッフの目が殺気立ってくる。そうなってくると一月100時間の残業は当たり前、それでもまだ時間が足りないといった状況に追い込まれる、それが当然のような時代であった。
そして、プロジェクトは遂に、大詰め、最後のテストの段階をむかえた。
しかし、問題はここから起こった。
何万件というデータを投入して、計算してテスト結果を出そうとするのだが、どうしても残金が合わないのだ。
「これじゃ、納品に間に合わないぞ」
先輩SEの悲痛な叫びが聞こえる。
勿論、スタッフ全員でもう一度、プログラムの見直し作業が行なわれる。
しかし、何度やっても、不具合な箇所は見つからない。それでも何度も何度も繰り返し、デバッグとテストは繰り返された。
そして、5000本以上もあるサブルーチン毎のしらみつぶしのデバッグは進み、ついにあるプログラムの怪しい箇所が特定できるところまで作業は進んできた。
しかし、その部分を作ったプログラマは下請け会社の、さらに女性派遣プログラマだった。
僕は何度か彼女が端末に向かっているのを見かけたことがあったが、勿論、話をしたこともない。
確か、色白で髪の長い女性だったように記憶している。
しかし、彼女は突然、会社に来なくなって、何処に行ったかわからないという。
そして、その時点になってようやく、彼女とまともに話をした事のある者は、誰もいないということに、みんな気がついたのだった。その女性プログラマは極端に無口だったからだ。
「どうしよう。」
「いや、どうもこうない...」
とにかく、彼女の書いたコーディングを追っていった。
彼女は几帳面らしく、コーディング自体は整然と書かれていた。どこにも不具合が無いように見えた。
しかし、彼女のプログラムを見ていたベテランプログラマのKさんが、突然、声をあげた。
「なんだ、この変数名は!」
通常変数名は、他のスタッフが理解できるような名前で書かれている。
当時は日本語入力が出来ないのでみんな半角のローマ字で書かれていたのだが...
KOROSU
その変数名は「殺す」という名前だったのだ。
Kさんはその変数を適当に別な普通の名前に修正した。ただ、それだけの修正だった。
そしてコンパイル、リンクして、システムを再度テストしてみた。
すると、なんとシステムは正常に動き出したのだ。
ほっと胸をなでおろす一同。そして、システムはなんとか納品にこぎつけることが出来たのだった。
数日後、僕は、Kさんに聞いてみた。
「なんで、あの変数を修正したんですか」
「あの変数、なんとなく、気持ち悪かっただろ。長年の勘っていうやつかな。」
Kさんは笑ってそう答えた。
しかし、僕の中には釈然としないものが残った。あれは何だったのだろうか。
勿論、その後、あの無口で色白で髪の長い女性を見た者も、彼女の噂を聞いた者も誰もいない。
まさむね