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「古事記」の山幸と海幸の場面を改めて読み直して考えた

12 10 月 2009 No Comment

三連休ということで、久しぶりに「古事記」を手に取った。
あの坂本龍一は「時間がある時は柳田国男の全集を読む」というようなことをどこかで言っていたが、僕の場合、「古事記」が、たまに帰ってくる「場所」のようなものだ。

特に神武天皇が生まれるまでの「上巻」(「古事記物語」現代教養文庫)が好きだ。というより、ほとんどいつも上巻しか読まないと言ったほうがいいかもしれない。特に理由があるわけではないが、だいたいこのあたりで飽きてしまうからである。「源氏物語」でも”須磨帰り”と言って、源氏が須磨に流されるあたりでいつも読むのを止めてしまう人がいるらしいが、だいたい似たようなものである。

今回、この「古事記」(上巻)を読んでみて気になったのが海幸彦と山幸彦の話だ。簡単に言えばこんな話だ。

ににぎの命と木花咲耶姫との間に、長男・海幸と次男と三男・山幸という三人兄弟がいた。長兄・海幸は海で漁を、末弟・山幸は山で猟をするのを生業としていたが、ある時、山幸が海幸に対して、道具を交換して、それぞれの猟(漁)をしてみようと誘う。兄・海幸はあまり気が進まなかったがとりあえず、言うことをきく。
しかし、結果は悲惨、山幸は海幸の釣り針を失くしてしまう。山幸は、なんとか別の針でもって償おうとするが、海幸はなんとしてでも返せと迫る。
困った山幸は、塩椎爺からの助言通り、海神のところへ行く。山幸は、そこで海神の娘・豊玉姫と結ばれる。そして、海神に自分が何故ここに来たのかを伝える。海神は、海中の魚を集めて、山幸の失くした釣り針を探すように言う。すると鯛の口にその釣り針が刺さっているのを見つけ、無事、山幸はその釣り針を手に入れる。
そして、海神は、山幸にその針を返す時に、「後ろ向きで『この釣り針は、ぼんやりする針、落ち着かない針、貧しくなる針、愚かになる針』といいながら、この針を渡せ」と言う。そして、針と一緒に、海の潮の満干を自由に操れる玉をに渡す。

山幸は、海神の言った通りにして海幸の元に帰って釣り針を返す。
その後、海幸はどんどん貧しくなり、遂には、山幸に攻めてくるが、山幸は海神にもらった玉を使って、海幸を溺れさせ、平伏させる。
後に、山幸は天皇家の先祖となり、海幸は隼人の先祖となるのだが、皇室の儀式の時の隼人の舞いは、海幸が溺れるときの仕草が取り入れられている。

全体を通して読めば、「他人には寛容であれ」という道徳譚として読める。確かに、子供の頃に読んだ絵本は、そういった文脈で書かれていたように記憶している。しかし、元々、嫌がる兄を無理やり説得して弓矢と釣り針を交換したのは弟・山幸のほうだ。そしてその針をなくしたのだから、それなりの咎を受けるのは当たり前だ。
それなのに、逆に兄を不幸に陥れる。元祖逆ギレ状態ではないのか。

それはともかく、古事記の登場人物たちは、周囲から助けられる存在として描かれることが多いということにも気づく。
大国主命は、兄達に殺されるが母親の祈りで生き返るし、ヤマトタケルは妻の力で海を渡ることが出来る。そして、この山幸も、義父に助けられるのだ。
敢えてこのように読んでみると、日本神話の大きな主題は「周囲に恵まれることが以下に大事なことか」なのかもしれない。

ただ今回、この山幸、海幸の部分を読んで気になったのは、いくつかのディテイルである。

例えば、海幸と山幸は実は三人兄弟だったということ。一体、二番目の兄はどこへいってしまったのだろうか。僕は逆にこういった、ある意味無駄な設定にリアリティを感じてしまうのだ。
古事記が、最初から物語として創作した話だとすれば、二番目の兄の存在を記す必要などなかったはずだからだ。

また、海神が山幸に対して、後ろ向きに呪文を唱えろというアドバイスをするところ。これは相手からの怨念を受けないための姿勢なのであろう。よく、ドラマなどで上司が部下に対して、「君はクビだ」的な辛い言葉を投げかける時に後ろ向きに伝える場面があるが、その神話学的な起源がここにあるような気がするのである。

そして、最後に、海幸の子孫の隼人が天皇家の前で披露する隼人舞い。被征服民が支配者の前で踊りを披露して、その忠誠を示すということなのだろう。それは、負け犬が勝ち犬に対して「腹を見せる」のと同様な服属儀式だ。
僕が何故か思い出すのが、小泉純一郎が、ブッシュ大統領の前でプレスリーの真似をして踊ったあのシーン。

今さらながら、神話学的にもっと糾弾されてしかるべき場面だったのかもしれないと思った。

まさむね

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