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偶然、樋口一葉の一葉忌とぶつかった休日の本郷を歩く

23 11 月 2009 No Comment

連休の最後の日ということで、妻と出掛けることになった。
どこでもよかったのだが、若い頃に妻が住んでいたという本郷に行ってみようということになった。

地下鉄丸の内線の本郷三丁目を降りて、東大の赤門の方向へ向う。
そういえば、丸の内線には新宿三丁目、四谷三丁目、本郷三丁目と三丁目が沢山ある。
三という数字はどこか不気味だ。都市伝説の元祖・トイレの花子さんも元々は、「三番目の花子さん」と言われ、三鷹や三軒茶屋等、三のつく場所に出ガチという話を聞いたことがある。丸の内線に三丁目が多いのもなんとなく不気味だな。四谷怪談のお岩稲荷は四谷三丁目だし、唐十郎の黒テントで有名な花園神社は新宿三丁目にあるし...なんてことを考えて歩いていた。いつもの妄想である。

しばらく歩いていくと、一葉忌という横断幕が張られている。そうか、今日は樋口一葉の祥月命日なのだ。ちょうど、東大の赤門の前にある法真寺は、一葉忌の会場になっていて、沢山の人だかりが出来ていた。ここは、一葉が幼少期を過ごした場所だそうだ。後にこのあたりを「桜木の宿」と呼んだのは有名である。
とりあえず、人ごみにつられて中に入る。寺の本堂の中に一葉の写真まで飾ってのお祭り騒ぎだ。改めて、彼女の人気を知る。

樋口一葉は、その短い生涯でまるで春の桜のようなはかなく、みずみずしい短編をいくつか残して亡くなった女流作家だ。彼の父は、元々は百姓だったらしいが、同心株を取得、しかしすぐに明治維新になってしまい、士族とはなるが、東京市の下級官吏として細々と暮らしていたらしい。しかし、「俺は士族だ」というプライドもあって、何かと出費も多く、借金を重ねてしまい、一家の生活はかなり苦しかったようである。父の死後、一家の大黒柱となった一葉が借金の無心に通ったという質屋も近くにあり、いまでは観光名所になっていた。

江戸の文学は、西鶴にしても馬琴にしてもストーリー重視だった。いわゆる読み本だ。少女の微妙な心情など文学の対象ではなかった。若い女性が、幼い子供のはかない恋心以前の微妙な心情を描いた「たけくらべ」はそういう意味で斬新だったのである。
文学の進化というものは、必ず、今まで言葉にならなかったような心情をリアルに言葉にする瞬間に起こるが、一葉はそんな瞬間を描き出せるような新しい筆を天性に持って生まれた少女だったのであろう。そして、その才能と引き換えにするように、彼女は短すぎる一生を文学にささげたのかもしれない。

さて、それから妻の案内で、一葉が暮らした坂の途中の木造屋、彼女が使ったという井戸などをめぐり、その足で白山の源覚寺まで歩く。この源覚寺は、「こんにゃくえんま」という民間伝説を持つ寺らしい。閻魔様が信仰の篤い老婆に片目をあげ、そのかわりにその老婆は好きだったこんにゃくを閻魔様に捧げたというのだ。だから、ここの閻魔様は隻眼だという。
閻魔様ってそんな事してくれる神様だっけ?という感じがしないでもないが、いかにも庶民的で面白い。昔は、無料でこんにゃくを食べさせてくれたらしいが、今は100円だ。それを教えてくれた妻はちょっと残念そうだった。
勿論、僕の興味は寺の墓地にある有名人の墓、そしてそこについている家紋だ。源覚寺には、小栗虫太郎という昭和初期に活躍した探偵小説家の墓があった。この小栗虫太郎は、「黒死館殺人事件」という長編奇書を残したペダンチックな作家だ。
家紋は茗荷だった。この茗荷紋は、三島由紀夫や北野武、角川春樹等もそうだが、心の中にディオニソス的悪魔を秘めた鬼才に多い家紋だと僕は個人的に思っていたのだが、やっぱりこの虫太郎先生もそうだったのである。

特に目的も無く古い街を歩くこと。大通り沿いにはマンションやオフィスビルが立ち並んでいるのだが、一歩入ると、重層的な歴史や物語が垣間見れる。なぎら健壱ではないが、東京にはまだまだ見るべきところが多いということを改めて感じさせられた。

まさむね

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