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昔の会社の社長に再会して込上げてきた甘酸っぱいもの

9 3 月 2010 No Comment

先週、ずっと昔にいた会社の社長に会いに行った。
僕はその日は、朝から緊張していた。
そのオフィスは外苑前にあるのだが、恵比寿からタクシーに乗った。今の会社の社長と一緒だ。
タクシーの運転手は、新人(といっても高齢)だったらしく、恵比寿から外苑前に行くのに、なぜか、六本木にまで、行ってしまった。
最近、こういう運転手さんは多い。一番ひどかったのは、六本木交差点で拾ったタクシーの運転手がいきなり「ここどこですか」と聞いてきたときだ。あのときは、目の前が真っ白になった。

それはともかく、その運転手は六本木から引き返すようなかたちで外苑前に向かった。ということは、青山霊園の中を突っ切るコースを通ることとなった。
いつもだったら、イライラする場面だが、その日に限っては、明らかに、心の中にその昔の社長に会う時間が延びたことに少し安堵感を感じていた。
しかも、青山霊園は僕のホームグラウンドである。僕を若干でも、なごませて落ち着かせてくれた。
タクシーの運転手が道を知らないというのも、たまには、いいこともあるのだ。

そして、そのオフィスに入った。昔の社長と面会した。社長は満面の笑みで僕を迎えてくれた。
僕は緊張して、今の会社の会社案内の裏面を出してしまった。
今の会社の社長が、冷静に「逆です」と言って直してくれた。
昔の社長は、「相変わらずだな」と言って笑った。
場が少しなごんだ。

そういえば、僕がその昔の会社に入社したのは今から16年以上も前の話だ。
その頃、僕は、プログラマをやめて、2年くらい、学生に混じって素人演劇をやっていた。ようするに、プー太郎だったのだ。
その会社の面接で何を話したのかなどは、緊張していてあまり覚えていないが、向こうに社長も含め、5人位の面接官がいたことは覚えている。
しかし、34歳の僕は何故か、その面接に通り、入社させてもらえることとなった。

いくら時代がバブルの余韻残る頃とはいえ、34歳のプー太郎をいきなり課長で入社させてくれる会社というのも凄い。
後で考えれば奇跡的なことだ。
実は、その頃の僕は社会人としても全く非常識で、ファックスに「いつもお世話になっております」というヘッダーを入れることすら知らなかったのだ。(当時はメールはなかった。)
後で聞いた話だが、取締役達は全員反対したのだが、その社長だけが「あいつは笑顔がいい。人間、ひとついいところがあれば、いいんだ。」ということで採用してくれたとのことだった。
それでも、僕はその会社で必死に働いた。休日は年に5日位しか取らなかったと思う。でも、もともとそれほど優秀なほうではない。それほど、必死になって仕事をしたのに、残念ながら結果はあまり残せなかった。それに、いろんな人に迷惑かけた...

その社長は厳しい人だった。よく、いろんな人に怒っていたが、何故か僕は一度もその社長に怒られたことはなかった。
子供の頃にやった、鬼ごっことかで、捕まっても鬼にならなくてもいい子(多くの場合は小さい子)のことを「お豆」と言ったが、僕はその会社では「お豆」だったのかもしれない。
僕は、よく社長室に呼ばれた。「ヤバッ、今度こそ怒られるかも。」と思っていくと、逆にニコニコしてその社長は、僕にいろんなものをくれた。時計、ズボン、カシミアのコート、シャツ、とにかくそのあたりにあるものを何でもくれたのだ。そして次の日からそれを着て会社に行く。社長に会うと、社長はまたニコニコしてくれるのだ。
実は、それには裏話があった。僕がある日、社長のPCをセットアップするために、お宅にお邪魔したところ、あまりにもみすぼらしい格好をしていたということで、社長は、お嬢様達から、「パパ、あの人にちゃんとお給料あげているの?」と逆に攻められたというのだ。
それで、社長はそれ以来、僕にいろんな現物支給してくれるようになったというのだ。
ウソのような本当の話である。

しかし、そんなによくしてもらったにもかかわらず、僕は不義理にも、3年位で、その会社を辞めてしまった。
そして、僕はそれからいろんな経験をして、今、50歳になった。あの当時と比べればだいぶ、仕事も出来るようになったし、社会的常識も身についたと思う、多分。

そして、僕は16年ぶりにその社長に再会したのである。
その瞬間、僕の心は直立不動、16年前の、何も出来なかった昔の自分に戻ってしまったような気がした。

僕は今の社長と昔の社長がビジネスの話をしているのをただ、ボーッと横で見ているだけの状態になってしまった。

その間、こんなことが頭をよぎった。
おそらく、人間が成長するということは、いろんな知識を得るということ以上に「成長した自分を自然に演じられるようになる」ということにすぎないのかもしれない。
人は、30歳になれば、30歳としての自然な演技できるようになり、50歳になれば、50歳の演技が出来るようになる。それだけの話ではないのか。
確か、小林秀雄は、「人間というものは、ボーっとしていれば常識は身に付くものだ。」というようなことをどこかで語っていたような気がするが、まさしく、無意識的に自然に振舞えるというのが成長ということなんじゃないのか...なんていうことを考えていたのだ。
まさに、人間(ビジネスマン)失格だ。

そうこうしているうちに、ミーティングは終わった。
「いろいろとありがとうございました。これからもよろしくお願いします。」僕は頭を下げた。
昔の社長は今の社長に向かってこう言った。
「こいつをよろしくお願いします。」
そして小声で訂正した。
「あっ、そっちの会社のほうが長くいるんだっけ(笑)」
おそらく、昔の社長にとっても、僕は昔の僕だったのだし、僕と会った瞬間に、16年前の社長に戻っていたのかもしれないと思った。
お互い様だ。

最後に僕は、その昔の社長の前で、笑顔を作った。
あの面接のときに見せたであろう、例の笑顔は出来ていただろうか...と後で思った。

まさむね

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