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「千と千尋の神隠し」の最後で、なぜ千尋は豚達の中に父母がいないことがわかったのか

8 1 月 2011 8 Comments

金曜日の夜に「千と千尋の神隠し」の再放送があった。
家に帰ると妻が「また観ちゃった。四回目!」と言った。

Wikipediaによると、このアニメは、興行収入304億円、観客動員数2300万人という日本の映画史上断トツのトップ。
さらに、その後のテレビ放映の視聴率(46.9%)、DVDとVHSを合わせたビデオグラム出荷本数は2007年5月時点で550万。
国民的アニメと言ってもいいような存在である。

しかし、その輝かしい国内成績に比べると、アメリカでの興行成績は”同時期のディズニーアニメの30分の1以下”だったという。
なぜ、アメリカではヒットしなかったのだろうか。

自分は、このアニメを全編通しては一度しか観ていないので、確固たる事を言えた義理ではないのだが、実は以前より、そのストーリーに関して一つだけ気になっている点があった。
それは最後の方で、湯屋「油屋」で働かされていた千尋がそこから出るための試練として、湯婆婆(湯屋の支配人)がある問題を出されるシーンである。
正確には覚えていないが、確か、玄関の前に並んだ豚達を前にして、湯婆婆に「この中にお前のお父さんとお母さんがいる、それを言い当てたら解放してやろう」的なことを言われ、千尋は見事、この中には両親はいないという”正解”をすることによって、元の世界に戻るのだ。

問題は、この場面で千尋が何故、正解を出せたのかということが全く説明されないで話が終わってしまうことである。
アメリカ市場を第一に考えたとしたら、この放り出し方はマーケッティング戦略的にあり得ないと思う。これは僕の勘であるが、おそらく、ここでロジカルなオチをつけていれば、アメリカでの興行成績は変っていたのではないだろうか。
僕はこの千尋の正解に全く説明が無い点に極めて日本ローカルの感性をみるのだ。
そして、おそらくそれは、万人に対しての分かりやすさを至上命題とするハリウッドとは全く別の発想である。
しかし、そこには、ある種の意味が隠されているに違いない。
このシーンで千尋が正解したことの意味は何なのだろうか。
今日のエントリーではそこを考えてみたいと思う。
        ★
湯婆婆は、千尋に対して、豚の中でどれが父でどれが母かという質問をした。
しかし、千尋は、その問いの中には答えが無いということを見抜いた。
そこにあったのは、成長することによって、自然にわかった「何か」としかいいようのないものである。
例えば、受験のようなペーパーテストの問題であれば、そういった問いを超える回答というのはあり得ない。そこには必ず回答がある。
しかし、現実の社会ではどうだろうか。
多くの場合、問いの答えは無い。いや、むしろ、常に問いを疑い続けることこそが社会を生きるということである。
おそらく、千尋は、湯婆婆の問いを超えることによって”大人”となったことが示された、そしてその成長によって、油屋から出ることが出来たのではないだろうか。
それが僕の仮説である。

僕は、今、四回目の「千と千尋の神隠し」を観たばっかりという妻に、同じ質問をしてみた。
そうしたら妻は単純にこう答えた。
「だって、お父さんもお母さんも豚じゃなくて人間でしょ。だからわかったんじゃないの?」
なるほど、時に妻は鋭い。
つまりこういうことか。
油屋の世界は実は「洗脳」された世界、つまり世の中が曲がって見えてしまう世界、だからその洗脳下では千尋も豚の中に両親がいると思い込んでいた。
しかし、今は違う、その洗脳が解けたがゆえに千尋は、ただ、当たり前のことをあたり前に言っただけということではないのか、ということである。

どちらが正解なのだろうか。これはこれからも考えていきたい一つのテーマである。
勿論、もっと別の見解もありそうだ。

さて、それとは別に僕はこの「千と千尋の神隠し」は、日本の伝統を失っている現代人に対するメッセージだと思っている。
そして、それを拙著『家紋主義宣言』にも書かせていただいた。
モラルが欠如した父と母が豚になり、その娘である千尋が湯屋で湯婆婆という白人に、名前を奪われて奴隷にされる。
それは戦後、アメリカ人に「洗脳」された核家族化した僕らの姿なのだ。
僕は、この荻野家の親子を、家紋を忘れつつある自分達日本人の比喩として捉えてみた。
そして、千尋が名前を取り戻して、「帰り道」を見つけたように、僕ら日本人も家紋を再発見することによって、日本人のよき伝統(今まで来た道)を見直してみるべきだというようなことを書いたのである。ご興味のある方は、是非、拙著をお読みいただければ幸いである。

まさむね

この作品以外のアニメ評論は、コチラからご覧下さい。

8 Comments »

  • JUN LEMON said:

    大変興味深く拝見しました。このアニメは大変深いテーマを包含していますね。

    千尋の父親と母親が屋台で飲食をして豚になってしまうくだりは、チベットの「死者の書」から来ているのではないかと思っています。「死者の書」のある翻訳ではこの映画と同じように中有界にいる亡者が、飲食をしたために豚に生まれ変わると書かれており、またある翻訳では亡者が欲望に誘われるままに洞窟に入り、人間ではない動物に生まれ変わると記されています。

    宮崎駿監督がこのアニメに取り掛かる前、チベット(特に「死者の書」)に大変興味を寄せていたという事実から、きっと関連があると推測しています。

    そこから、千尋は数々の困難(修行)を経て、霊的な目=心眼を開き、一人の人間としても大きく成長したということなのかな、と思っていました。

    いろいろなことが考えられるこの「千と千尋の神隠し」のテーマですが、今度アメリカでヒットしかなった理由を、日本にいるアメリカ人に聞いてみようと思います。

  • masamune (author) said:

    JUNさんへ

    こんばんわ。
    チベットの死者の書を宮崎監督が読まれていたというのは知りませんでした。
    大変、興味深い話です。
    「千と千尋の神隠し」はいろんな解釈が可能な名作ですね。

    カオナシとは何をあらわしているのか
    銭婆婆はアメリカのもう一つの顔ではないのか
    油屋は、売春宿ではないのか
    名前を奪うというのはどういうことなのか

    など、面白いテーマが沢山あります。

    おそらく、これらの問いの正解は永遠に人々の中に残っていくんだと思います。

    そして映画としても、黒澤の「七人の侍」や小津の「秋刀魚の味」などと同じようにずっと残っていくと思いますね。

  • みぃ said:

    いつも興味深く、拝見させていただいてます^^

    楽しみがひとつ 増えました♪””

    また遊びにきま~す☆

  • masamune (author) said:

    みぃさんへ

    最近は「苗字から引く家紋の事典」三昧で、他の本とか、テレビとか全然、見れておらず、エントリーもさぼりがちですみません。
    春になったら、頑張ります。

  • umibiraki said:

    興味深く拝見させていただきました
    私の疑問は少しズレているかもですが、両親が豚になるまでの千尋と両親の関係がおかしいと思います。
    今までの宮崎アニメの家族関係とはかなり違っていて、父親は千尋に関心が無く母親は父親に気を使いながら千尋に接しているように見えます。
    現代の家族関係を描いているなら寂しすぎます。

    それでも、子供からすれば親は唯一無二の存在。子供が自分の親を間違える事は無いんだよって言うのが正解した理由なんでは無いかと思います。

  • おっことぬっしー said:

    みなさんいろんな意見考察あってとても面白かったので自分も考察を考えたので書いてみたいと思います!

    自分の場合はそういう深い内容じゃなくてもっと単純に父と母の豚に何らかの特徴で見分けていたのだと思います 

    作中にも 千尋が「あんまり太ると食べられるよ」みたいなことを言っていたのや、
    夢の中で苦団子を食べさせる時に豚がいっぱい押し寄せてくるっていう場面から
    食べられないか? ほかの豚と見分けがつかなくなったらどうしよう・・・
    っていうのはチェックしていると思うんです

    成長や父や母は豚じゃないからっていう意見も自分では想像できなくて感心したのですが
    やっぱりそれだけだとあの時の千尋の確信した顔はできないと思うんです

  • ここが知りたかった!「千と千尋の神隠し」の疑問と謎 said:

    [...] 出典「千と千尋の神隠し」の最後で、なぜ千尋は豚達の中に父母がいないこと… [...]

  • はく said:

    この映画がアメリカでヒットしなかったのは、宗教のせいかと。八百万の神々を邪宗とするキリスト教徒が見ても、理解できないでしょう。

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