「蟲師」 日本の原風景を描いたアニメ
以前、高澤先生にいただいたコメントの中に書かれていた「蟲師」のことがずっと気になっていたのだが、最近、ようやく観ることができた。
このアニメの中で言われている「蟲」というのは、昆虫のことではない。それは生命そのものというか、生命と不生命の間の存在というべきか、実は、よくわからない存在なのである。
その形状は様々であり、多くの場合、そのイメージは蟯虫(ギョウチュウ)や回虫(かいちゅう)のようなものである。それが、あるときは人に、そしてあるときは、自然に取り憑き、不思議な現象を引き起こすのだ。
主人公のギンコはそんな蟲を求め、その研究をしながら、蟲にとりつかれて困っている人々を助けながら放浪する、つまり蟲師なのである。
それぞれの回は一応、完結する形で話が進むので、とりあえず第一話だけを観ても、話は理解できるようになっている。
しかし、理解できるといっても、僕は、毎回、微妙な謎を残してしまう。それは、僕の理解力が不足しているためなのか、それとも、蟲自体の不思議さがゆえに、常に謎を残すような設定になっているのか、それすらもよくわからないのであるが、毎回、見終わると、爽快感とは無縁の寂しさ、そして息苦しさを感じてしまうのである。
それはこの「蟲師」が描いている世界の寂しさ、そして息苦しさが直接伝わってくるからというのが僕の推理である。
おそらくここに描かれているのは、ありえたかもしれないもう一つの日本の姿である。それは、もしかしたら鎖国を続けていた世界であり、一方で近代文明に取り残された日本の話とも言えるのかもしれない。(ご覧になっていない方にとってはわかりにくい説明で申し訳ありません。)
その世界では、土地にへばりつくように生きている人々がいて、その土地の宿命とも言うべき、病気や災害や様々な怪奇現象がある。
そして、話の中では、それらの宿命はすべて「蟲」のせいで起こされた現象であることを蟲師のギンコは探っていくのであるが、それぞれの土地には必ずと言っていいほど、不条理な掟があり、それによって差別や偏見、生贄などの不幸が存在しているのだ。
このアニメの主題は「蟲」と、それを退治する蟲師の闘いである以上に、そういった日本という土地が持つ宿命的な貧しさ、暗さを見せつつ、しかし、それでも必死に生きている人々が抱くささやかな幸せとは何か、ということだと思う。
そして、このアニメで描かれている幸福感こそ、長らく日本人が共通で抱いていた幸福感であるに違いない。
おそらく、それは、ほんの50年位前には確実に存在していたモノのようにも思える。
この「蟲師」を観終わって思い出す一編の詩があった。
それは伊藤静雄の「帰郷者」という詩である。
その詩はこんな一行で始まる。有名な一行なのでどこかで目にしたことのある方も多いかと思う。
自然は限りなく美しく永久に住民は貧窮してゐた
この詩は、そんな自然を賛美すると同時に、土地に縛り付けれてきた日本人の長年の営みに対するなんとも言えない感情で締めくくられる。
(全編は、コチラをご覧下さい。)
僕にとってのアニメ「蟲師」は、蟲の話でも、蟲師の話でもない。
それは日本の原風景を描いたアニメである。
まさむね
この作品以外のアニメ評論は、コチラからご覧下さい。





こんばんは。
『蟲師』は時代背景など細かな説明がないままに不思議な空間で話しが進んでいくところも一つの特徴ですね。
原作本ですとさらに深くそう感じます。
この作品は自分としては珍しく原作→実写版映画→アニメの順で観たのですが、映像になったものも原作を崩さないように作られていることに好感が持てます。
原作では不覚にも何度も泣いてしまった(歳ですね)のですが、一番好きな『残り紅』がアニメになっていないのがちょっと残念です。
本来、人の喜びも悲しみも生きる土地に根ざし受け入れていかねばならないものとして描かれていますね。
登場人物は皆が「さだめ」というものに背を向けず、受け入れながら生きている。限りなく哀しいのだけれど、それだけではなく小さな幸せもそこにある。
この作品を見るとき、私はかならず山間の狭い谷にあり、母が入院している間あずけられていた母の実家を想い出します。いや、想い出すと言うより、本当にこの物語にある出来事を体験してきたような錯覚に陥ってしまうのです(^^;
高澤先生へ
この「蟲師」に描かれている「哀しさと小さな幸福」観は、今はとりあえず物質的な価値観によって埋め合わされたように思います。
全体としてみれば、それよかったのだと思いますが、どこか後ろ髪を引かれる気もしますね。
先生は実際に、この「蟲師」的世界をご経験されているのですね。それは、またこの作品を観る観方も違うのでしょう。
先生とは同年代ではありますが、僕のように都会しか知らない人間にとっては、ある意味、うらやましいです。
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