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守る神、壊す神としての少女 「パプリカ」を観て。

1 8 月 2011 3 Comments

僕はあまり夢というものを見ない。いや、おそらく、見てはいるのだろうが覚えていないとったほうが正確なのかもしれないが、よくわからない。

一方、妻はよく夢を見るらしく、大抵の朝御ごはんの時間は、妻が前の晩に見たとりとめのない夢の話を聞きながらの時間である。そんな時間は僕もボーッとしていることが多いので、政治経済や生活臭い話よりも、そういった夢の話のほうが心地よい。

さて、2006年に公開された今敏監督のアニメ「パプリカ」を観た。これは、夢と現実がごちゃごちゃになる映画で、そのほとんどが、夢の世界の描写から成るアニメである。ご存知の方も多いとは思うが、今監督は昨年(2010年)の夏に46歳という若さで亡くなられたアニメ監督で、鬼才とも呼ばれうる独特の才能を持ったアニメーターであった。
勿論、この「パプリカ」も凄いクォリティだ。冒頭にも書いたが僕はほとんど夢を見ないので、夢ってこんなものなのかと恐ろしくなるシーンの連続である。そして、もしも、これが夢だとしたら、毎日、夢を沢山見る人は寝ている間も相当疲れるだろうなと思った。
これから、妻との朝の挨拶は、「おはよう」ではなく、「お疲れ様」にしなければならないのかもしれないと思った。

映画のストーリー自体はそれほど難解なものではない。DCミニという他人の夢に入り込むことが出来る機械が研究所から誰かに盗まれ、それが悪用され、何人かの夢が融合し、巨大な妄想の世界になり、しかもそれが、現実世界をも侵食してくるのをなんとか食い止めるという展開だ。
その間、一人の刑事が自分の学生時代の親友との因縁話絡みのトラウマを夢の中で乗り越えるというちょっとイイ話と、その機械を開発した時田という男と、同じ研究室の千葉敦子という女性が結ばれるというささやかなラブストーリーが挿入される、基本的にハッピーエンドの話である。
パプリカというのは、その千葉敦子が他人の夢の中でセラピーを行うときのもう一人の人格、少女の名前である。

ただ、この映画の魅力は上記のストーリーとはほぼ無関係に、そこにあたかも実在するような夢の生々しさのアニメ表現にある。それはある人にとっては、不気味であるが、別の人にとっては気持ちいいものに違いない。おそらく、それはこのアニメを見る人が普段、どういった夢を見るのかということにも関わってくるのであろう。つまり、このアニメとのシンクロ率は、その人の夢体験の豊富さと比例するもののような気がするのである。

その意味で、夢を見ない僕にとって、その映像は驚きと恐怖の連続であった。勿論、それは楽しい体験であることは確かではあるが...

さて、僕がこのアニメについて語ることがあるとすれば、それはこのアニメに登場する破壊の神としての少女型の日本人形と、DCミニを盗んだ黒幕である研究所の理事長をやっつける(飲み込む)救いの神としての少女(パプリカ)、その二人の少女のことである。

僕はここ数ヶ月の間、いくつかのアニメを観たのであるが、その中で、最も活躍する性別・年代は何かと言われたなら、文句無く、子供の女性つまり、少女と答えざるを得ない。それほど、現代アニメの想像力にとっての少女というのは重要なポジションにいる存在だ。
エヴァンゲリオンにおいて、碇シンジを守ろうとする綾波レイから、まどマギのMADOKAまで、世界の秩序を守るのは決して大人の男ではなく少女なのである。勿論、こんなことはアニメファンにとってみれば当たり前中の当たり前の話なのであろうが、僕などはこれは柳田國男が「妹の力」で書いたような男を守る超越的な力を持つ少女という、日本民俗の古層にその起源がある独特の観念が、現代まで脈々と生きている証拠ではないかという風にも言ってみたくなるのであった。

話を「パプリカ」に戻すと、特に、最後のシーンで、俗世の欲望を全て体現したような巨人となった老人=理事長を吸い込むごとに、少女から大人の女に成長していくパプリカの存在とは、日本社会に常に存在し続ける既得権益者たる醜悪な老人を飲み込む無垢な少女による救済を、僕ら日本の男達が心のどこかで永遠に求めていることの証しのようにも見える。
しかし、残念なことに、僕はパプリカの、老人に対する痛みの無いまっすぐな力強さに対して、どこか違和感を感じてしまったのも確かである。これは言い換えれば、問題に対する解の単純さに対する違和感と言い換えてもいい。小林秀雄ではないが、「吾々にとって幸福な事か不幸な事か知らないが、世に一つとして簡単に片付く問題はない。」のである。
そして、その違和感は、2006年からの5年あまりの歳月に原因がある、特に震災をはさんでしまっているというのが大きく関わっているようにも思えるのだ。

どうしようもない世界に住む僕ら。そして、その世界を救済すべきかどうかをも含めた葛藤の物語と、それに伴う痛み(犠牲)をどのように表現するのか。
これが震災後のアニメに求められるリアリティに大きく関わってくると思う。
勿論、それは現時点での僕のドタ勘である。

まさむね

この作品以外のアニメ評論は、コチラからご覧下さい。

3 Comments »

  • 高澤 said:

    そういえば、ずいぶん前に今敏さんの死についてARK氏とお話しました。
    その後に、ネット上で彼の長い遺言を読んだのですが、とっさに「パプリカ」の場面を思い起こさせるような言葉もありましたね。
    残念ながら「パプリカ」の内容はよく覚えてはいないんですけど。

    私は夢をよく見ます。ほぼ毎日見ているし、夢を見るために寝ることもあります。
    考えれば横になって目を閉じて眠りにつく前の数十分(いつもこれくらい掛かります)は、メチャクチャ想像力を働かせた妄想をします。時にそこで仕事のヒントが出てきて渋々また起きることもあります。

    私の夢は残念ながら今さんのような自由な世界観の夢ではなく、登場人物は至って普通で、ただ時代や人間関係などのシチュエーションだけがメチャクチャな夢です。

    子供の頃に見た怖い夢は見なくなりました。
    その代わりいま見る夢は、すでに会うこともなくなった人たちがたくさん登場するので、きっと自分ではそれが楽しいのかも知れません。
    ただ自分が自分の嫌な性格と思っているところは容赦なく出てくるので、そこだけはツライですね。そういう時は起きた後にむかし嫌な思いをさせてしまった人のことが頭に残っています。

    でもなんとなく夢は次第に心地よいものになってきたように感じます。
    これは人生の半分以上をすぎたことでの準備ということなのでしょうか(^^;

    とりとめのないお話しで申し訳ないです。

  • しんゆう said:

    私も最近、久しぶりに「パプリカ」を見ました。
    あまり普段アニメを見ない自分にとって、今敏さんの作品は大好きです。確か小学生のときにDVDを買ったのですが、それからは今敏さんの作品に大いに惹かれました。
    「夢」が大きな要素となる作品ですが、この作品内で描写される「夢」とは、本当に生々しいです。自分もかつて似たような夢を見たことがあり、変なシンクロを感じたほどでした。その分、楽しかったです。
    特にこの作品で好きだったのは、鳥居や冷蔵庫、その他よくわからないものたちのパレードのシーンと、音楽です。監督の今敏さんは、音楽家の平沢進さんの大ファンで、今さんの作品の大半の音楽は平沢さんが担当していました。この映画を見て、今さんと共に平沢さんも好きになりました(ちなみに平沢さんと私は誕生日が同じです)。

    なんだか普通の感想でスイマセン;^^
    この作品は本当に大好きなので、本当に純粋な感想を書かせていただきました。

  • masamune (author) said:

    高澤先生へ

    こんばんわ。今監督の遺言を読みました。
    「壁のカレンダーから何か動き出して部屋に広がり始める」というあたりですね。
    遺言だけに、このイメージも憂いを帯びます。
    「パプリカ」における狂気のパレードは今監督の深層心理にある風景なんでしょうか。

    僕は夢は覚えていないのですが、「なんらかの夢を見たようだ」という記憶は残ります。
    それは不安だったり、恐怖だったり、なんだかわからないけど、嫌な思いをしたみたいだという観念だけが残る感じなら今でもあります。
    自分では、絵的な想像力があまりないのだと思っています。

    しんゆうさんへ

    「パプリカ」の夢は本当に生々しいですよね。その天然の想像力には驚かされます。

    しんゆうさんも似たような夢を見られるのですか。それが、あの独特の絵に反映しているのかもしれないですね。
    夢というのは、自分ではどうにもならないものですが、それを人間の意志によって変えるというのは、タブーの領域に踏み込んでいることになるのかもしれません。
    そんなこともこのアニメは僕らに教えてくれますね。

    平沢進さんというのは僕は今まで意識したことはありませんでした。
    これから聴いてみようかと思います。

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